徒然草

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大火葬戦史 押川列伝01 「正義の墓標<1>」

「嘘も百万回繰り返せば真実となる」
 ドイツ第三帝国の宣伝相、ヨーゼフ・ゲッベルスはこう言った。
 しかし嘘はしょせん嘘。いくら必死に塗り固めようとも、疑惑という名の穴は必ず露見するだろう。
 だが、嘘とは防衛本能が生み出すこともある。目の前の酷な現実から逃れるために一時凌ぎ程度にしかならないとわかっていながらも嘘をついてしまう。
 これは人の悲しい性であり、誰であっても例外はない………。
「関守議員、今北産業との癒着疑惑について一言お願いします!」
「関森議員!」
「議員、今北産業から受け取った五億の金はどこに消えたんですか? 一言お願いします!」
 まるで草食獣に群がる肉食獣のように報道陣からの質問と撮影のフラッシュが四方八方から押し寄せる。衆議院議員の関守 貫英はこの日も嘘で己を塗り固めていた。
「だから儂は何度も言ってるでしょう。儂は今北産業からカネなんか受け取ってない。消えた五億も何も、存在しないモノについて語れるはずがないでしょう」
 関守は足早に国会議事堂前に駐車させている黒塗りのベンツを目指す。だが、報道陣の肉壁にさえぎられて思うように前へ進めない。
 ………えぇい、このハイエナどもめ。関守は内心でたぎる思いを懸命に隠しながら唇を噛む。
「では関森議員、議員が昨年に購入した高級マンションの資金をどう説明されるのですか?」
 関守が昨年に購入したマンションの一室は、いわゆる億ションという奴で今北産業から受け取ったと噂される資金がなくては購入が不可能だと言われている。関守はそれについて何も言わず、ただ歩くのみだった。
「議員、何か言ってください!」
「それともその無言は肯定ですか? あ、議員! 議員!!」
 関守は報道陣に対して応えず、車に乗り込んだ。防音処理が施されている車に乗れば、耳障りな報道陣の質問も聞こえなくなる。関守は車に乗ることで己と外界とを遮断した。
 ………忌々しい。今北産業のバカどもめ。あれほど献金のことは隠し通せといったのに。
 関守は大きく舌打すると、車のハンドルを握る運転手に向かって予約しているホテルに行くよう命じた。運転手は車の前に立ちふさがるように撮影を続けるカメラマンにクラクションを鳴らし、それでもどこうとしない厚かましいカメラマンに対しては強引に車を発進させて無理やり追い払った。
 ホテルについた関守は運転手を帰し、自分は確保しておいた部屋の鍵を受け取ってベッドに身を投げ出す。
 ………なぜ私、関守 貫英がこのような目にあわなければならんのだ。
 関守は天井を見据えながら自問自答する。
 幼い頃から関守は勉学に励み、有名私立中学から有名進学高校、東京帝国大学に入学、就職先は大蔵省と絵に描いたようなエリートコースを歩み、そして政治家となった自分。自分は大衆とは違う、選ばれた存在なのだというプライドが関守にはあった。
 そんな関守の経歴に傷が入ったのは、帝国海軍が今度新たに新設する特務実験艦隊の艤装工事で便宜を図ってやった今北産業から七億もの献金を受けたことからだった。だが、関守はそれを悪いことだとは考えていない。俺は特別な人間だと言う「思い」と、今まで遊びたい時に遊ばず、エリートコースに乗るために必死になって無駄になっていた「青春」のツケを回収しているのだという「考え」。この二点が今北産業からの献金を、関守は当然のものとして捉えさせていた。
 愚民どもが………俺がこの地位を手にするためにどれだけの努力があったと思っているのだ。お前たちのような愚者では考えることすらできないほどの人生を送ってきた私が、そのツケを回収して何が悪いのだ!!
 関守はムシャクシャして灰皿を扉へ投げた。ガラスでできた灰皿が木目の美しい扉にぶつかって砕ける。灰皿が砕けた音の後、少しおびえた様子のノックが三度鳴った。
「………何だ?」
 その場の感情で灰皿を砕いたことに関守は少し負い目を感じながらノックに応えた。
「ルームサービスでございます」
「ルームサービス? 別にいらん………」
 関守の返事を聞かず、扉は開かれる。そして入ってきたのはホテルマンではなかった。なぜそれがわかったかって? ホテルマンは手に拳銃を持っているはずがないからだ。
「いいえ、関森議員にはこのサービスを受けていただきます。『天誅』という名のサービスをね………」
 関守の部屋に入ってきた男は死神のように薄く、冷たく笑うと拳銃の引き金を絞る。
 ポスッ
 消音装置が装備されていた拳銃から放たれた銃弾が関守の右肺を撃ち抜く。関守は激痛に顔を歪め、悲鳴で助けを呼ぼうとする。
 ポスッ
 もう一度、引き金を絞られた拳銃から放たれた銃弾は関守の声帯を破壊した。悲鳴をあげたくてもあげられない、だが即死できなかった関守は恐怖で涙を浮かべる。
「その苦しみの中で己の罪を悔いなさい」
 罪? 悔い? この男は何を言っているのだ………!?
 関守はそこでふと思い出した。近頃世間を騒がせている連続殺人犯のことを。犯罪者や汚職者を狙った殺人を繰り返し、現場に「ある一枚のカード」を残していく殺人犯………。
 男の正体を知った関守の目の前で、関守を撃った男はそっと紙切れを落とした。その紙、カードには関守の予想通りの単語が書かれていた。
「天誅」
 それが関守の見た最期だった。関守は出血多量で意識を失い、流しすぎた血の中で心臓の鼓動を止めたからだ。男は関守が事切れたことを確認すると、そっと部屋の扉を閉じた。
 今北産業からの献金が噂されていた関守 貫英議員は、連続殺人犯「天誅男」の五人目の犠牲者として最期を迎えた………。


 一九七二年二月一六日水曜日午後二時三五分。
 大日本帝国東京府は北多摩にある古本屋「準」。
 それなりの広さを誇る店なのだが、先週のジャンプから坊ちゃんの初版本、さらには年に二回開催されるオタクの祭典で購入できる同人誌まで手広く陳列させているため店内は本に圧迫されるかのような錯覚を覚えるほどに余剰スペースは狭かった。
 さすがに平日の昼間となると客は少ない………というか、いない。こんなことで店の経営は大丈夫なのだろうかと客の方が余計な心配をしたくなるかもしれないな。六〇代の老人店主は呑気なことを考えながら新聞を読んでいた。
 ガラガラガラと引き戸が開かれる。おや、いつも暇な時間に客とは珍しい。店主は好々爺としかいいようがない、いい笑顔で「いらっしゃい」と言った。しかし客の顔を見るや店主は残念さと嬉しさを混ぜた表情を見せた。
「何だ、お前か。客かと思ったのに………」
「『何だ』はないでしょう、お父さん。久しぶりに娘が来たのに」
 丸く大きなトンボ眼鏡のズレを直しながら娘は口を尖らせる。店主はクスリと笑い、娘も一緒に笑った。店主は自宅になっている二階で昼食の後片付けをやっているであろう妻を呼んだ。
「母さん、初瀬だ! 初瀬が来たぞ!!」
 古本屋「準」店主、押川 恵太は一年ぶりに顔を出した娘、押川 初瀬を迎えるために店を臨時休業とすることを決めた。

「一年ぶりね、初瀬」
 押川 恵太の妻である均美がお茶を入れながら言った。
「そうねー。私はもっと顔を出したいんだけど、海軍やってるとそんな暇ないもんね」
 押川 初瀬の職業は軍人である。帝国海軍の中尉として艦隊勤務に配属されていると押川夫妻は聞いている。
 ここで少し話を脱線させるが、帝国海軍が女性志願者を受け付けたのは日米戦争(大火葬戦史第一期本編)後のことだ。日米戦争で人材が(特に士官クラスの人材が)払底した帝国海軍は一刻も早い人材回復を成し遂げる必要があり、女性であっても優秀な人材はドンドン確保しなければならないと女性に対しても門戸を開放した。当初は軍令部での事務作業を任せるだけの予定であったが、日米戦争から三〇年近く経過した今となっては女性艦長や女性司令長官も誕生していた。
 押川 初瀬が女性でありながら艦隊勤務についているのにはそういう理由があるのだ。では、話を元に戻そうか。
「ところで軍艦って男の人が多いのでしょう? 嫌がらせとか受けてない?」
 心配そうな均美に初瀬は笑って上着のそでをまくった。
「大丈夫。そんな不届き者がいたら投げ飛ばしてやるし、実際に何人も投げ飛ばしたもん」
「やれやれ………我が娘ながらとんだお転婆だ」
 元海軍少将(退役時に昇進)の押川 恵太は娘の武勇伝に肩をすくめた。その際に店で読んでいた新聞のことを思い出して娘に質問した。
「そういえばお前の艦は大丈夫なのか?」
「大丈夫って………何が?」
「色々と問題になってるじゃないか、今北産業」
「ああ、今北産業の献金問題ね。ま、別に手抜き工事したわけじゃないし、私の乗ってる『扶桑』に問題はないからいいけどね」
「そうか。………扶桑は元気かね?」
 押川はかつて(短い間だったが)自分が艦長を勤めた戦艦に娘が乗り込んでいるという事実に目を細めた。
 扶桑は日米戦争前からある戦艦で、艦齢が半世紀を超えるという老朽艦だ。それが未だに使われていると言うのは異様な話だが、それだけに最新技術のテストケースに使われ、今なおグダグダ続いているベトナム戦争でテト攻勢にあえぐ米軍を救出するために扶桑が出撃した時は主砲をすべて撤去した代わりに対地ミサイルをわんさか積んだ対地攻撃特化の武器弾薬庫戦艦として対地総合火力攻撃を展開、ベトナム戦争が今なお続く遠因となっている。
「元気と言えば元気だけど、さすがにもう古すぎて廃艦にしようって話もあるみたいね。テト攻勢でなまじ活躍しちゃったから手放せなくなってたみたいだけど、新造艦でちゃんとした武器弾薬庫艦作るって話もあるみたいだし」
 初瀬は自分の乗艦の近況を語り終えると、「ちょうどいいや」と呟いて恵太に話を振った。
「ねぇ、お父さんは最近、暇?」
「ずいぶんと失礼なことをいう奴だな………ま、暇なことには変わりないけどさ」
「じゃあ一つお願いがあるんだけど………」
「?」
「今北産業献金の件で問題の渦中にあった関守議員が殺されたのは知ってるよね?」
「ああ、今読んでた新聞に書いてたくらいだしな」
「関守議員が殺害された件を、お父さんに調べて欲しいのよ」
 娘が父親に頼むこととしてはあまりに大きな話だ。父は自嘲気味に笑った。
「おいおい、初瀬。俺は確かに元海軍だが、今はしがない古本屋だぞ? そういうことは警察に頼むべきだろう」
「海軍も警察も、しょせんはお役所ってことよ」
 娘が欧米人のように肩をすくめて皮肉めいた微笑を浮かべる。娘の表情を見た父親はため息を一つ吐いた。
 つまり海軍はこの私に警察の捜査情報を、それも前線での第一次情報を探らせたいわけだ。警察と言う組織が海軍という組織に捜査の進捗を報告する際、嘘とは言わないが、脚色がどうしても入ってしまう。これは警察という巨大な組織が、帝国海軍と言うこれまた巨大な組織への報告をまとめる際に発声せざるを得ない事象だ。伝言ゲームを想像してみればいい。多人数で伝言ゲームを行った場合、開始時点の情報が終了時には別のものとなってしまうだろう。当然、遊びじゃないのだからブレは最小限になるだろうが、どれだけ小さくともブレはブレ。海軍としては面白いはずがないというわけだ。
 だが、この俺、押川 恵太ならブレが生じる以前の、捜査最前線での取れたてホヤホヤの情報を集めることができる。海軍はそう考えているわけだ。
 そして海軍の考えは概ね当たっていた。かつての日米戦争の折、海軍軍令部を取り仕切っていた遠田 邦彦の下で陸軍との調整や兵器開発の伝令、はてにはスパイ網の調整まで行っていた押川 恵太は、海軍を退役して三〇年近く経過した今でもありとあらゆる場所にコネを持っている。生来の才能である人懐っこさと、したたかさで蓄えた人脈を使えば警察の捜査最前線の情報を集めることなど造作でもないことだ。
 ただ、一つだけ問題があるとするならば、押川 恵太本人が自分の人脈を使って何かをすることを好んでいないと言う一点だった。
「初瀬、お前には言わなくてもいいと思うが、俺は確かにコネを持っている。でもな、俺はそのコネを誰かのために使おうと言う気にはならないんだ。第一、海軍を退役させられた身の私が、どうして今更海軍のために一肌脱がなければならないんだ」
「ああ、お父さんがそう言う事は知ってたわよ。でもね、私も上からお父さんに頼むよう命令されたんだからしょうがないじゃない………」
「じゃあ上官に伝えなさい。押川 恵太はもう海軍に一欠けらの恩義も感じていないって」
 押川父は仏頂面でそう言い切ると、妻が淹れてくれたお茶をすする。安物の茶でも真心と腕前次第ではこれほどまで美味しくなるのだという教科書のような味が押川の口内を浸す。
「………恩義ねぇ。上官が言ってたわよ、年に二回も海軍の輸送機に乗り込んでコミケ行ってるんだから、その恩義にたまには報いなさいって」
「ん゛………ゲホッゲホッゲホッ」
 娘の言葉に父親はむせる。うう、痛いところを突いてくれる。
 海軍を辞めてもオタクは辞められなかった押川 恵太は帝都大阪で年に二回開かれるオタクの祭典、俗にいう「コミケ」への交通費を少しでも浮かせるために海軍時代のコネを使って東京から大阪までの輸送機に便乗していた。それに客入りがあまりよろしくない古本屋を続けられるのも海軍時代の恩給があればこそ、である。押川 恵太は急に来月からの恩給の額面が気になった。
「はぁ、そこを持ち出されたら断るわけにはいかないな………」
 押川は観念した面持ちで天井を見つめた。天井の木目がかつての上官、遠田 邦彦のあざ笑いに見えた。しぶしぶといった体で元海軍少将の古本屋店主は言った。
「わかったよ、初瀬。海軍からの依頼、受けるよ」
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  1. 2008/02/17(日) 21:29:18|
  2. 試作小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

お久しぶりです。ありがとうです。

…新年の挨拶はなんか去年済ませたような気がするので省略させていただきます。昨年はバイトして夏コミ行って、バイトして携帯機種変して冬コミ行ってました。昨年末のmyブームは師走冬子と藤崎真緒だった豊葦原千五百秋瑞穂国です。

myパソの画面が逝ったきりはや幾星霜、創作者であるはずの私も半ば忘れ(ォかけていた“押川家の愉快な面々”を復活させていただき、まことにダンケシェーンでございます(礼。

しかし押川恵太は週末は結構忙しいのです。
押川「金曜日に帰りマン見て、土曜日にスペクトルマン見て、仮面ライダー見て、日曜日は好き!すき!!魔女先生見て、シャボン玉ホリデー見て、ミラーマン見て…」
初瀬「年相応に新・平家物語とか見なよ。この65歳児」
押川「そんなの年寄りが見るもんだ。せっかく札幌オリンピックも終わって通常放送になったのに…。週末に危険な思想を持った危険な団体が山荘に立てこもったりしたら泣くぞ、俺は。」
初瀬「お父さん、なんかシャレになんないからやめなよ。」

1972年ってすごい年だ。

では、仕事と小説の両立は大変でしょうが頑張ってください。気長に待ちますよ。
  1. 2008/03/10(月) 03:27:59 |
  2. URL |
  3. 豊葦原千五百秋瑞穂国 #5e4sZKMs
  4. [ 編集]

エロ広告のコメントと間違えて自分のコメントを消してしまった(ぉ

というわけでコメントTake2

>豊葦原千五百秋瑞穂国さん

どうも、お久しぶりです。
私の方はもうそろそろ世界樹の迷宮2が踏破寸前………もとい、仕事が一段落つきそうなので、そろそろ小説書きに戻る予定です。
さっさと戦争時代を終わらせないとなー。

>創作者であるはずの私も半ば忘れ(ォかけていた“押川家の愉快な面々”を復活させていただき、まことにダンケシェーンでございます

こちらこそ、数年前に頂いた設定をいきなり掘り返しちゃってゴメンナサイ。
この話、新キャラによる新設定でもよかったんですが、私にとって大火葬世界が一番書きやすい世界感になってるんです。
そして押川さんがまた動かしやすいキャラなんだわ、これがな。

そういうわけでまた押川さんをお借りします。
  1. 2008/03/11(火) 20:01:47 |
  2. URL |
  3. 山本 瑞鶴 #-
  4. [ 編集]

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