徒然草

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宇宙警察官 コバーン(4)

 日根野 高雄は今年で四五歳になる。昼は一.五流程度の会社の営業マンとして自社製品の売り込みを行い、夜は気の合う同僚と一緒に居酒屋で飲むのが趣味の、どこにでもいるようなサラリーマンだ。
 高雄は酒を飲むことは好きだが、酒に強いわけではなく、ビール一本もあれば充分気持ちよくなれる。故に一度の飲み会で使う費用はそう大した額にはならず、高雄の決して多くはない小遣いで何とかやりくりできるのだった。
 しかしその日、高雄はビールだけで三本、さらに焼酎をグラス四杯も飲んでいた。前々から取り組んでいた大きな商談がまとまり、その成果と苦労と労うためにハデな飲み会を開催したのだった。苦労が報われて手にした大きな成果。それは杯を進める最高のツマミとなり、高雄はへべれけになるまで飲んだのだった。
 本人だけがまっすぐ歩いていると思っている足取りは右、左と揺れる。視界も波間に漂うボートのように揺れているのだが、酔っ払いはそんなこと気付かない。
 またママと子供たちには呆れられるんだろうなぁ。
「お父さん、お酒くさ~い」と鼻をつまんで手をヒラヒラさせる娘の姿が目の当たりするようにわかる高雄。でも、しょうがないじゃない。酒は人類の友なんだから。友達を見捨てるなんて、人でなしなことができるか!
 酔っ払いの高雄の思いは内心だけに留まらず、口を衝いて言葉として発せられている。高雄のみがそれに気付かず、内心の独白を続けながら自宅のあるマンションの前に辿り着いていた。
 そこで高雄は一匹の犬を見かけた。マンションの近くに立つ街灯に照らされて浮かぶのは黒の毛に覆われた、痩せた犬だ。首輪はついていないから、きっと野良犬なのだろう。
「お~? きったねぇ犬っころだぁな」
 犬は高雄の言葉がわかるのだろうか。高雄の言葉を聞いた瞬間、グルルと唸り始める。
「お~? 何だよ、気ぃ悪くしたのか? そりゃ悪かった! ごめんちゃい」
 高雄はパチンと手を合わせて犬に頭を下げる。しかし酔っ払いの、誠意のない謝意に許しを与えるほど犬も甘くはなかったらしい。犬は不機嫌そうに唸り続けながら、身を低く屈める。
「ガウ!」
 瞬間、犬は咆哮をあげながら高雄に向かって跳びかかる。その跳躍はまるで弾丸のようだ。
「ヒィッ!?」
 高雄は恥も外聞もなく地面を転げ、犬の体当たりを回避する。いや、回避に成功したわけではない。元から犬の狙いは高雄ではなかったのだから。
 犬は高雄の背にあったマンションの壁を狙っていたのだ。犬はマンションのコンクリートの壁に牙を衝きたてる。犬の牙はコンクリートを易々と噛み砕き、犬は噛み千切ったコンクリートの破片を、音を立てて貪り食う。まるで骨に喜んでかぶりつくかのような自然さで、その犬はコンクリートを食べていた。
「は、ははは………」
 高雄は犬がコンクリートを食べる音を背中で聞きながら、自宅のあるマンション五階まで階段を駆け上がった。普段はエレベーターを使うのだが、今日は使うつもりはない。コンクリートを噛み千切って食べる犬のいるマンション前から一刻も早く逃げ出したかった。エレベーターが一階に降りてくる間、標的をコンクリートから私に変えるようなことがあったらどうする! 残された娘は、息子は、妻はどうなる!
 日根野 高雄は愛する家族のため、全力ダッシュで階段を駆け上がり、アルコールの靄を完全に振り払って帰宅したのだった。

 翌日。土曜日の太陽がすっかり昇りきった頃になってようやく高雄は目を覚ました。それでも脳はまだ眠りを欲しているのか、思考がぼんやりとして定まらない。それでも高雄は眠気が残る体を起こす。尿意が睡眠欲を上回ってしまったからだ。
 トイレに向かう高雄は居間でコーヒーを飲んでいる娘を見つける。受験生の娘は気分転換にと読んでいる小説に目をやりながらコーヒーをすすっていた。
「お早う、摩耶」
 高雄は娘の背中に声をかける。娘は父の方に振り返り、挨拶を返そうとしたが、すでに高く昇った太陽を見て挨拶を言い換えた。
「お父さん、お早うじゃなくて『遅よう』だよ」
 娘の言葉に反論できない高雄は申し訳なさそうに頭を掻く。娘はそんな父親に微笑んでから尋ねた。
「そういえばお父さん、昨日はなんだかずいぶん慌てて帰ってきたらしいけど、何かあったの?」
「ん、実はマンションの玄関の近くに何だか凶暴な犬がいて………」
「犬?」
「ああ。コンクリートの壁を噛み砕いていたんだが………」
 しかし、よくよく考えれば犬がコンクリートを噛み砕くわけがない。昨日のことは酒を飲みすぎた自分が見た夢だったのではなかろうか。
「もしかしてその犬が噛み砕いた壁って」
 娘はそう言うと父親の手を引いてエレベーターに乗り、下に向かうよう操作する。娘が案内したのは、高雄が昨日犬を見かけた場所だった。確かにコンクリートの壁の一部が何か強力な力で破壊されていた。
 やはり昨日のことは夢じゃなかったんだ! コンクリートを噛み砕く犬が実在しているなんて………。高雄の表情が見る間に青ざめていく。
「ねぇ、お父さん。お父さんは犬がこの壁を壊したって言ったわよね? それってどんな犬だったの?」
「え? えぇと、そうだな………。黒い毛をして、痩せた犬だったなぁ」
「ふーん。ねぇ、お父さん。私、ちょっと本屋に買い物行ってくるね」
 娘はそう言うと高雄の返事を待たずに駆け出した。高雄は慌てて娘の背中に問いかける。
「おい、摩耶、まさか私が見た犬を探すつもりじゃないだろうな!? 危ないからやめなさい!」

「危ないからやめなさい!」
 お父さんは私の安全を考えて、そう言ってくれました。でも、私はこの事件を解決してくれる人を知っているのです。なら私がそのことを教えてあげるのが一番いいに決まっています。そう考えた私はマンションの近所の雑木林に入り、周囲に誰もいない事を確認してから携帯電話を取り出し、以前にもらった紙に書かれた一〇桁の数字を入力します。
 トゥルルルトゥルルル………。
 私は電話をかけながら、唾を飲みました。本当にこのアドレスで通じるのでしょうか? 不安と期待の両方を高く積み上げながら私は電子音が途切れるのを待ちます。
「はい、宇宙警察です」
 六回目のコールで電子音は途切れ、男の人の声が聞こえてきました。頼もしさの中に優しさが窺える、そんな私を安心させてくれる声です。
「………も、もしもし?」
 私は恐る恐る言葉を紡ぎます。
「えぇと、コバーンさんですか? 私………」
 そこで私はあの時に自分の名前すらコバーンさんに教えていない事を思い出します。ああ、この場合、私はどう名乗ればいいのでしょう。あの時、あなたに助けてもらった者とでも名乗るべきでしょうか?
「ああ、この声はあの時の女の子ですか。どうしました?」
 しかしコバーンさんは私の声を聞いただけで、私のことを思い出してくれました。名乗りに悩む必要がなくなった私はほっと息を吐いてから続けます。
「あの、この間のシジュウ、捕獲できてますか? 実は、私の家のマンションの壁を食いちぎった犬がいるようなんですけど………」
「本当ですか!? ちょっと待っていてください。すぐそちらに向かいます。今、電話している雑木林にいてください」
 さすがは宇宙の科学力と言うべきなのでしょうか。コバーンさんは私がどこから電話しているのかすぐにわかったようでした。私は説明しなくて済んだ事を感謝しながら言いました。
「あ、はい。待ってます」
(続く)
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  1. 2007/10/17(水) 23:22:35|
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