徒然草

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宇宙警察官 コバーン(4)

 日根野 高雄は今年で四五歳になる。昼は一.五流程度の会社の営業マンとして自社製品の売り込みを行い、夜は気の合う同僚と一緒に居酒屋で飲むのが趣味の、どこにでもいるようなサラリーマンだ。
 高雄は酒を飲むことは好きだが、酒に強いわけではなく、ビール一本もあれば充分気持ちよくなれる。故に一度の飲み会で使う費用はそう大した額にはならず、高雄の決して多くはない小遣いで何とかやりくりできるのだった。
 しかしその日、高雄はビールだけで三本、さらに焼酎をグラス四杯も飲んでいた。前々から取り組んでいた大きな商談がまとまり、その成果と苦労と労うためにハデな飲み会を開催したのだった。苦労が報われて手にした大きな成果。それは杯を進める最高のツマミとなり、高雄はへべれけになるまで飲んだのだった。
 本人だけがまっすぐ歩いていると思っている足取りは右、左と揺れる。視界も波間に漂うボートのように揺れているのだが、酔っ払いはそんなこと気付かない。
 またママと子供たちには呆れられるんだろうなぁ。
「お父さん、お酒くさ~い」と鼻をつまんで手をヒラヒラさせる娘の姿が目の当たりするようにわかる高雄。でも、しょうがないじゃない。酒は人類の友なんだから。友達を見捨てるなんて、人でなしなことができるか!
 酔っ払いの高雄の思いは内心だけに留まらず、口を衝いて言葉として発せられている。高雄のみがそれに気付かず、内心の独白を続けながら自宅のあるマンションの前に辿り着いていた。
 そこで高雄は一匹の犬を見かけた。マンションの近くに立つ街灯に照らされて浮かぶのは黒の毛に覆われた、痩せた犬だ。首輪はついていないから、きっと野良犬なのだろう。
「お~? きったねぇ犬っころだぁな」
 犬は高雄の言葉がわかるのだろうか。高雄の言葉を聞いた瞬間、グルルと唸り始める。
「お~? 何だよ、気ぃ悪くしたのか? そりゃ悪かった! ごめんちゃい」
 高雄はパチンと手を合わせて犬に頭を下げる。しかし酔っ払いの、誠意のない謝意に許しを与えるほど犬も甘くはなかったらしい。犬は不機嫌そうに唸り続けながら、身を低く屈める。
「ガウ!」
 瞬間、犬は咆哮をあげながら高雄に向かって跳びかかる。その跳躍はまるで弾丸のようだ。
「ヒィッ!?」
 高雄は恥も外聞もなく地面を転げ、犬の体当たりを回避する。いや、回避に成功したわけではない。元から犬の狙いは高雄ではなかったのだから。
 犬は高雄の背にあったマンションの壁を狙っていたのだ。犬はマンションのコンクリートの壁に牙を衝きたてる。犬の牙はコンクリートを易々と噛み砕き、犬は噛み千切ったコンクリートの破片を、音を立てて貪り食う。まるで骨に喜んでかぶりつくかのような自然さで、その犬はコンクリートを食べていた。
「は、ははは………」
 高雄は犬がコンクリートを食べる音を背中で聞きながら、自宅のあるマンション五階まで階段を駆け上がった。普段はエレベーターを使うのだが、今日は使うつもりはない。コンクリートを噛み千切って食べる犬のいるマンション前から一刻も早く逃げ出したかった。エレベーターが一階に降りてくる間、標的をコンクリートから私に変えるようなことがあったらどうする! 残された娘は、息子は、妻はどうなる!
 日根野 高雄は愛する家族のため、全力ダッシュで階段を駆け上がり、アルコールの靄を完全に振り払って帰宅したのだった。

 翌日。土曜日の太陽がすっかり昇りきった頃になってようやく高雄は目を覚ました。それでも脳はまだ眠りを欲しているのか、思考がぼんやりとして定まらない。それでも高雄は眠気が残る体を起こす。尿意が睡眠欲を上回ってしまったからだ。
 トイレに向かう高雄は居間でコーヒーを飲んでいる娘を見つける。受験生の娘は気分転換にと読んでいる小説に目をやりながらコーヒーをすすっていた。
「お早う、摩耶」
 高雄は娘の背中に声をかける。娘は父の方に振り返り、挨拶を返そうとしたが、すでに高く昇った太陽を見て挨拶を言い換えた。
「お父さん、お早うじゃなくて『遅よう』だよ」
 娘の言葉に反論できない高雄は申し訳なさそうに頭を掻く。娘はそんな父親に微笑んでから尋ねた。
「そういえばお父さん、昨日はなんだかずいぶん慌てて帰ってきたらしいけど、何かあったの?」
「ん、実はマンションの玄関の近くに何だか凶暴な犬がいて………」
「犬?」
「ああ。コンクリートの壁を噛み砕いていたんだが………」
 しかし、よくよく考えれば犬がコンクリートを噛み砕くわけがない。昨日のことは酒を飲みすぎた自分が見た夢だったのではなかろうか。
「もしかしてその犬が噛み砕いた壁って」
 娘はそう言うと父親の手を引いてエレベーターに乗り、下に向かうよう操作する。娘が案内したのは、高雄が昨日犬を見かけた場所だった。確かにコンクリートの壁の一部が何か強力な力で破壊されていた。
 やはり昨日のことは夢じゃなかったんだ! コンクリートを噛み砕く犬が実在しているなんて………。高雄の表情が見る間に青ざめていく。
「ねぇ、お父さん。お父さんは犬がこの壁を壊したって言ったわよね? それってどんな犬だったの?」
「え? えぇと、そうだな………。黒い毛をして、痩せた犬だったなぁ」
「ふーん。ねぇ、お父さん。私、ちょっと本屋に買い物行ってくるね」
 娘はそう言うと高雄の返事を待たずに駆け出した。高雄は慌てて娘の背中に問いかける。
「おい、摩耶、まさか私が見た犬を探すつもりじゃないだろうな!? 危ないからやめなさい!」

「危ないからやめなさい!」
 お父さんは私の安全を考えて、そう言ってくれました。でも、私はこの事件を解決してくれる人を知っているのです。なら私がそのことを教えてあげるのが一番いいに決まっています。そう考えた私はマンションの近所の雑木林に入り、周囲に誰もいない事を確認してから携帯電話を取り出し、以前にもらった紙に書かれた一〇桁の数字を入力します。
 トゥルルルトゥルルル………。
 私は電話をかけながら、唾を飲みました。本当にこのアドレスで通じるのでしょうか? 不安と期待の両方を高く積み上げながら私は電子音が途切れるのを待ちます。
「はい、宇宙警察です」
 六回目のコールで電子音は途切れ、男の人の声が聞こえてきました。頼もしさの中に優しさが窺える、そんな私を安心させてくれる声です。
「………も、もしもし?」
 私は恐る恐る言葉を紡ぎます。
「えぇと、コバーンさんですか? 私………」
 そこで私はあの時に自分の名前すらコバーンさんに教えていない事を思い出します。ああ、この場合、私はどう名乗ればいいのでしょう。あの時、あなたに助けてもらった者とでも名乗るべきでしょうか?
「ああ、この声はあの時の女の子ですか。どうしました?」
 しかしコバーンさんは私の声を聞いただけで、私のことを思い出してくれました。名乗りに悩む必要がなくなった私はほっと息を吐いてから続けます。
「あの、この間のシジュウ、捕獲できてますか? 実は、私の家のマンションの壁を食いちぎった犬がいるようなんですけど………」
「本当ですか!? ちょっと待っていてください。すぐそちらに向かいます。今、電話している雑木林にいてください」
 さすがは宇宙の科学力と言うべきなのでしょうか。コバーンさんは私がどこから電話しているのかすぐにわかったようでした。私は説明しなくて済んだ事を感謝しながら言いました。
「あ、はい。待ってます」
(続く)
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  1. 2007/10/17(水) 23:22:35|
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宇宙警察官 コバーン(3)

「………ん、ん」
 私が目を覚ましたのはベッドの上でした。部屋と呼ぶにはあまりに殺風景で、カーテンに閉ざされた窓の他にはベッドくらいしかない部屋に私は一人で寝ていたようです。
 あれ? 私は、近所の雑木林でバケモノに襲われたはず。それにこんな部屋は知らないわ………?
 ボンヤリとする意識の中、私は必死に状況を把握しようとします。でも、私が記憶を辿り終えるより先に部屋のドアが開き、一人の男の人が入室してきました。男の人を見て、最初に私が思ったのは体つきのことでした。一八五センチくらいの長身に、ガッシリとした体格。年齢は二〇代半ばといった所だから、「大学時代はラグビーでもやってたんですか?」とよく聞かれたりするんだろうなぁ。そんな大きな体を、動きやすそうだけど飾り気の少ない紺色の服で包んでいます。襟元の長方形の形をしたバッジが唯一の飾りです。
どちらかというと濃い部類に入る眉毛はたるみなくまっすぐで、内面の意志の強さを感じさせます。ただ、イケメンとするには少々くどい顔とも言えるかな?
「大丈夫ですか。気分が悪いとか、どこか具合の悪い所はありませんか?」
 男の人はベッドから上半身を起き上がらせている私を見て話しかけてきました。年下の私相手にも丁寧な口調で質問しています。意識してそう振舞っている節は見えませんでした。おそらく彼はどんな時も、誰にでも丁寧な物腰で応対しているのでしょう。だけど年上の男の人に、こうも丁寧に応対されると、気恥ずかしさすら感じました。少なくとも私は、そう感じました。
「あ、はい。大丈夫です………けど」
「けど?」
「あの、ここは一体どこですか………?」
 不安げな私の口調に対し、彼はまったく自然にこう答えました。
「ここは宇宙警察太陽系駐在所です」
「うちゅうけいさつ? たいようけいちゅうざいしょ?」
 私はまだはっきりとしない頭を振り、そして言いました。
「あの、冗談はやめてください。宇宙警察なんて、漫画じゃあるまいし」
「ふむ。ですが、事実なのですからしょうがないでしょう」
 男の人はそう言うとリモコンのスイッチを入れて窓を覆っているカーテンを開けさせました。窓の外に見えるのは理科の教科書や図鑑の写真でなら何度も見たことがある土星でした。土星の輪がはっきりと見えて、惑星を彩る指輪のようでした。
「ど、土星!?」
 私はふらつく足取りも何のその。窓に駆け寄って土星を凝視します。私の混乱は収まるどころか大きくなるばかり。そんな私の心を知ってか知らずか、男の人は自己紹介を始めます。
「自分は宇宙警察のジュンサー・コバーンです。この駐在所に勤務する宇宙警察官です」
 ジュンサー・コバーンと名乗る、体格のいい青年はそう言って「よろしく」と頭を下げました。しかし私はまだ混乱の渦中にあり、頭を下げ返すと言う発想すらできませんでした。
 宇宙警察? 太陽系駐在所? 宇宙警察官?
 仮に彼の言葉から、「宇宙」という単語を省けば話は早くなると思います。「宇宙」を省いた場合は、「自分は警察のジュンサー・コバーンです。この駐在所に勤務する警察官です」となるんだから。うん、実に通りがいい響きです。
「ん? 翻訳機の調子がおかしいのですか? おかしいな、銀河統一規格のはずなのに………」
 コバーンさんは服の襟元のバッジを触りながら、初めて困惑した様子を見せます。どうやら、そのバッジが翻訳機とやらのようです。
「あはは、何だかよくわかりませんけど、随分と手の込んだドッキリカメラですよね」
 ………私はもう笑うしかありませんでした。笑って、目の前の現実から逃避をはかります。ホラ、早く出てきてよ、プラカードを持った人。
 でも私の淡い期待をよそに、この部屋にいるのは私と、コバーンさんの二人のみ。当然ながらコバーンさんも背中にプラカードなんて隠し持っていません。
「ふぅ、やはり一筋縄では納得してくれませんか………」
 コバーンさんは一息だけつくと、丁寧な口調のまま続けます。
「えぇとですね、この銀河に知的生命体が住んでいるのは地球だけじゃないんです。あなた達地球人にわかりやすく説明すると、宇宙人は実在するんです。まずこの前提をわかってもらえますか?」
「は、はぁ………」
「で、私たちはその宇宙人たちの犯罪者を取り締まる宇宙警察官なのです。ここはその宇宙警察官が所属する宇宙警察の太陽系駐在所というわけです」
「は、はぁ………」
 曖昧な私の返事にコバーンさんは少し困った面持ちで額をポリポリと掻いています。そりゃ、漫画とかだったから納得できますけど、いきなり面と向かってそんなこと言われて納得できるはずがないじゃないですか。
「えぇと、何か質問したい事はありますか? お答えしますが?」
 コバーンさんは作戦を変更したようです。私に説明するのではなく、私の疑問に答えていくスタイルに変えたようです。私にとってはその方がありがたいのが事実でした。
「じゃあ、まず一つ………。コバーンさんは宇宙人ってことですか?」
「はい。ポリスマ星の人間型宇宙人です」
「はぁ、そうですか。じゃあ次は、コバーンさん以外にも宇宙人っているんですよね?」
「そうですよ」
「でも、私、宇宙人なんて見たことないし、ニュースでも報道されてませんよ」
 宇宙人が実在するならば、テレビとかが放っておくはずがない。そう思った私はそのことを尋ねてみます。コバーンさんは短く刈りそろえられた髪を掻きながら応えてくれます。
「うーん、その辺はややこしくてねぇ………。まぁ、色々とはしょって説明させていただきますが、今の地球の文明水準で私たちのような宇宙人が自由に往来すると大混乱が起きると銀河連邦は考えているんですよ」
 確かに銀河を自由に往来できるほどの科学力は今の地球にとってはオーバーテクノロジーすぎるだろうなぁ。
「それに地球には惑星単位での統一された政府機関がありませんし、銀河連邦政府としても第三種交流しか許していないんです」
 何だかあちらさんの専門用語が沢山出てきて余計に混乱してきたけど、要するに………。
「えぇと、私が地球に住んでいても宇宙人を見かけないのは、コバーンさんたち宇宙人側が地球に立ち入らないようにしてくれているから、ということですか? 理由は、地球が田舎の惑星だから?」
「まぁ、詳細は省いていますが、そういう認識でいいと思いますよ」
 ふむん。私は地球の中じゃ最先端国家のひとつの日本に住んでいるけど、宇宙人の眼から見たらトンでもないド田舎に住んでいるということかぁ。宇宙規模の最先端ってどんな所なんだろう。私の家の近くみたいに雑木林なんかないんだろうなぁ………。
「雑木林」という単語が頭をよぎった時、私は気を失う前のことを完全に思い出しました。暗闇の中からふいに襲ってきた、あのバケモノのことを。
「あれ? あの、さっき私、タコみたいな怪物を見たような気がしたんですけど………」
「ああ、あれは多脚型宇宙人タコトパス星人なんですけどね。うん、彼は飲酒UFO運転で操作を誤って地球に降り立ってしまったんです。地球に降りるには銀河連邦外務省の厳密な審査が必要だと言うのに、冥王星のバリケードを突破してしまったのです」
 ………冥王星にバリケードなんかあるの?
 ピンポーン
 高めのトーンの音が、コバーンさんの話が終わるのを待っていたかのように鳴り響く。
「誰か来たみたいなので、ちょっと失礼します」
 そう言ってコバーンさんは席を外します。どうやら今の音は呼び鈴のようで………って、ちょっと待って。今の音ってうちの呼び鈴と同じ音なんですけど。やっぱりコレってドッキリじゃないの?
再び膨れ上がる私の疑念。でも、その疑念はあっという間に吹き飛ばされます。
「お? お嬢ちゃんがコバーンの言ってた地球の少女?」
 コバーンさんと入れ替わる形で部屋に入ってきた人が気さくに声をかけてくれます。何だか緊張感に欠ける、緩やかな声でした。声の質から判断すると、どうやら男の人のようです。いや、性別がそもそもあるのでしょうか? コバーンさんと入れ替わりで部屋に入ってきた気さくな人を一言で片付けるなら「ロボット」だったのですから。
 照明の灯りを反射する金属の皮膚。わずかな挙動でも響く駆動音。そして顔の中心に一つだけ輝く眼………。ロボットの人(?)は私が寝転ぶベッドの端に腰を降ろして私の顔に目線を向けます。一つ目のカメラアイがかすかな駆動音をたてて動いています。
「タコトパス星人の酔っ払いに襲われちゃったんだって? 災難だったねぇ。ま、犬に噛まれたとでも思ってすぐ忘れてくれるとおじさんたちは嬉しいね。あ、犬に噛まれたら忘れられるはずないか。何てたって痛いもんね」
「は、はぁ。あの、あなたは………?」
「ああ、地球じゃ珍しいんだっけか? 俺はヒューマノイド、いわゆる人間型ロボットのテトっていうんだ。一応、コバーンの上司なの。よろしくね」
 テトと名乗るロボットは私の手を取るとぶんぶんと上下に振りました。本当に気さくな、ロボットとは思えない気さくさをもつ人(?)でした。
「あ、テトさん。ここにいたんですか」
 どうやらテトさんを探していたらしいコバーンさんが再び部屋に現れます。
「ど~したのよ、コバちゃん」
 テトさんは気だるそうに左肩をもみながら返事します。なんだかこの人も、中の人がいるんじゃないかってくらいに怪しい感じがします………。
「さっき逮捕したタコトパス星人、宇宙遊牧民のすぐ傍を通過したらしいんですよ」
 ………宇宙警察の次は宇宙遊牧民かぁ。そんなことを密かに考えている私を横目に二人の宇宙警察官が仕事の話を続けます。
「その際にシジュウが一頭逃げ出して、地球に降下したそうです」
「シジュウが? ったく、あのタコトパス星人め。余計な仕事を増やしてくれちゃってさぁ」
「で、どうしましょうか?」
「そりゃ捕まえるしかないでしょ。地球にシジュウがいたら、生態系が乱されちゃうよ。まぁ、コバちゃんはとりあえずそこのお嬢ちゃんを地球に送ってあげなさい。地球の科学力じゃ太陽系駐在所はおいそれと来れる場所じゃないんだから」
 土星を一望できる場所にある駐在所なんか、NASAでも来れません。

「ほ、本当に宇宙なんですねぇ」
 私を太陽系駐在所から地球に送る移動手段を見た時、私は素っ頓狂な声をあげたものです。だって、それはどう見ても地球の軽自動車だったんですから。
「我々は仕事でよく地球に降り立つ事があるから、地球でも目立たない形にする必要があったんですよ」
 テトさんはそう言って説明してくれましたが、しかし軽自動車が宇宙を走るってのはあまりに非現実的すぎます。というかギャグです。
「迷彩シールドは施してあるから、地球から望遠鏡をいくら覗いても我々は見えやしないけどね」
 軽自動車のハンドルを握るコバーンさんがそう言いました。でもその言葉は私の耳に届きません。私は軽自動車型UFOの助手席(?)で窓の外を流れる星の煌きと、太陽系の惑星を間近に見ることに忙しくってそれどころじゃありませんでしたから。
 もしかして私って土星を間近で見た最初の日本人、いや、地球人なのかも!
 私の胸はロックバンドのドラムのように激しく高鳴っています。今じゃこう感じています。もう、これがドッキリでも全然構わない。こんなに胸が素敵に高鳴るなんて、何年ぶりかしら。こんな気持ちになれたのなら、騙されたとしても嬉しいわ。
「でも、これって本当のことなんですよね………」
 それはよく考えてみれば馬鹿げた質問でした。それでもコバーンさんは丁寧に、だけど少しの茶目っ気を加えて答えてくれました。
「当然です。ええと、地球だとこう言うんでしたっけ? 『頬をつねってみてごらんなさい』って」
「うふふ。ほっぺた、すごく痛いです。痛いのがこんなに嬉しいなんて!」
 嬉しそうに弾む私の声。それは自分でわかるほどでした。
「でも、これだけは約束して欲しい」
 コバーンさんは茶目っ気を消して、真面目な口調で私に告げます。
「君が今日見たこと、体験した事はすべて秘密です。理由は、わかっていますね?」
「喋るはずないわ。いえ、喋っても信じてもらえないわよ」
「ん………」
「ところで………」
 窓の外を眺めながら私はコバーンさんに尋ねます。
「シジュウってどんなのなんです?」
「ん? ああ、宇宙遊牧民が育てている宇宙家畜ですよ。値段の割に味がよく、どんな料理にもあうことから重宝されているんです」
「へぇ、地球で言うと鶏肉みたいなものなのかな?」
「肉のイメージとしては近いかもしれません。でも、生物としては全然違いますね」
「そうなんですか?」
「シジュウは怒りっぽくて、とても凶暴な生き物なんですよ。シジュウを育てる宇宙遊牧民の方々は常に武装しているくらいです」
「ええ!?」
「ああ、でも安心してください。人は食べませんから。ただ、周囲の何かに擬態する能力があって………それだけに、むしろ探すのが厄介かもしれません」
「はぁ………」
「さ、もうすぐ着きますよ」
 いつの間にか目の前には青い惑星が目一杯に見えています。それはもちろん、漆黒の宇宙で太陽の光を浴びて青く輝く私たちの惑星。地球。
「ありがとうございます。………人を襲わないって、じゃあシジュウは何を食べるんです? 草ですか?」
「いえ、石です。石を食べてシジュウは大きく育つんですよ」
 衝撃もなく軽自動車型UFOは地面に着地。そして私のマンションのすぐ近くで停車します。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ、お礼を言われるようなことでもないのですけどね。何せ君はタコトパス星人の酔っ払いに襲われたのですから」
「でもコバーンさんに助けてもらったのも事実ですよね?」
「ははは。ではおやすみなさい。私はこの辺りを見回ってから戻るとします。何かあったら呼んで下さい。すぐに駆けつけますから」
 軽自動車から私が降り、扉が閉められたのを確認してからコバーンさんはそう言って、私に一〇桁の数字が書かれた紙を手渡してくれました。その紙には「宇宙警察太陽系駐在所電話番号」と書かれていました。
「では、おやすみなさい」
 コバーンさんはそう言うと軽自動車型UFOをゆっくり走らせながら私のマンションの傍から離れて行きます。私は軽自動車が見えなくなるまでずっと立ちながら見守っていました。車内の暖房で暖まった体が冬の寒空で冷えていくごとに、私は夢が醒めていくのを感じました。
 私の体が冷え切って、私がくしゃみを一つした時。私は元の受験生に戻ったのでした。

(続く)
  1. 2007/10/08(月) 23:11:30|
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宇宙警察官 コバーン(2)

 日根野 摩耶が眩いが、一瞬だけの光芒を目撃する少し前のこと。
 常夜の宇宙を、二筋の流星が切り裂いていた。いや、そう見えるだけで事実は違った。「それ」は流星ではなかった。「それ」の正体はUFOと俗に呼ばれる宇宙船であった。両方とも人間が数名入ることが出来る程度の小型UFOであった。
 先頭を行くUFOは、いわゆるアダムスキー型と呼ばれる形をしていた。それが宇宙を飛び回ることは大して違和感を覚える事はないだろう。UFOとは宇宙を往く代物だとされているからだ。だが、アダムスキー型を追いかけるUFOの形は、私たち地球に住む者の常識からすればシュールであった。追いかける方のUFOは地球の軽自動車と同じ形をしていたからだ。それが(何の意味があるのかわからないが)車輪を回転させながらアダムスキー型を追跡していた。
「そこのUFO、スピード違反だ。止まりなさい!」
 シュール極まりない軽自動車型UFOのハンドルを握るのは人間の男であった。彼は無線機の送話機を片手にアダムスキー型に呼びかける。だが、アダムスキー型は蛇行しながらも速度を緩めない。傍から見ていても止まる気は更々感じられなかった。
 しかし宇宙を舞台にしたカー………もといUFOチェイスは唐突に幕が切れた。アダムスキー型UFOが操作を誤って地球の引力に引かれて落ち始めたからだ。
「あのバカ!」
 軽自動車型UFOに乗る男は舌打ちしながらも地球に墜落したアダムスキー型UFOを追いかける。クラッチを踏みしめ、ギアを大気圏突入に入れ替える。そして軽自動車型UFOは地球の引力に案内されながら、地表目指して車輪を回転させたのだった。

 マンションを出た私、日根野 摩耶は光が見えた先、近所の雑木林に向かって早めに足を動かしていました。都心部から少し離れた、いわゆる郊外である陣風町にはまだ雑木林が残っています。私も幼い頃は弟と一緒にこの雑木林でカブト虫を捕まえたりしたんだけど………そういえば、家から歩いて五分もかからないほど近くにあるにも関わらず、私がこの雑木林に入るのは何年ぶりだろう?
 久しぶりに雑木林に足を踏み入れた私を待っていたのは光が差し込まない純粋の闇でした。夜中に雑木林へ人が入る事を考慮してないから街灯もなく、さらに木々が星明りの侵入すら許さない。懐中電灯を持っていない私は雑木林に足を踏み入れてすぐに後悔し始めました。
 光がないのがこれほど怖いとは思いませんでした。さっきの光の正体がわからないのは残念けど、どうせ正体がわかっても残念だったに決まっている。宇宙人とかUFOとかを素直に信じる事ができるほど、私はこども未成熟ではないんだから。見る間に私の興味は恐怖感によって塗りつぶされていきます。恐怖感は私に引き返すよう命令し、私は恐怖感に従う事にしました。
そうと決まったら、家のあるマンションの近くの自動販売機でジュースでも買って、さっさとベッドに入って眠りにつこう。まったく、どうしてこんな所に来ようと思っちゃったのかしら………。
 暗闇に対する不安と恐れをごまかすために、私はあえて考えをぐるぐる廻らせながら、回れ右、足を自宅の方へ向け直します。そして第一歩を踏み出した瞬間………!
 ガバァッ!
 何が起こったのかわからなかった。私にわかったことは天と地がひっくり返ったことと、左足首が何者かに強くつかまれて痛いことくらいでした。どうやらロープのようなものに左足首をつかまれて宙吊りにされているようでした。
「キャアッ!? 何? 一体、何なの!?」
 私は混乱してわめくしかできません。ですが、私の中でわずかになった冷静な部分が夜の向こうに何かいる事を告げていました。私の冷静さは、私の手にポケットの中にある携帯電話を取り出させるとカメラモードにして、何かの気配がする闇の向こうを撮影させました。
 パシャ
 シャッター音と同時にフラッシュが光り、闇の向こうにいた存在に光が一瞬だけ降り注ぎます。一瞬の光で見えた闇の向こうにいたのはタコに似た、足が沢山ある生物でした。だが、それがタコであるはずがありません。何せここは陸地だし、タコに私ほどの身長があるはずないですから。
「バ、バケモノ!!」
 ………後にして思えば、この悲鳴はタコによく似た生物を端的に現していたと思います。バケモノは沢山ある触手(?)の一本を伸ばして私の足首を掴み、宙吊りにしていました。
 だが、バケモノもどこかうろたえている様に見えました。キョロキョロと私と周囲を見比べています。
「(((( ;゜Д゜))))」
 バケモノが私にはさっぱりわからない言葉を発します。でも、その声のトーンからすると、ここにいるはずの誰かを探しているようでした。だとしたら私は人違いでこんな目にあってるのだろうか? そう考えると神様の気まぐれが恨めしく思えました。
「やっと見つけた! スピード違反を始めとする宇宙航行法違反の現行犯で逮捕する!!」
 その時、雑木林の暗闇の中から一人の男が現れました。暗くて姿はよく見えないけど、生真面目そうな声でした。
「(・`ω´・)」
 再びバケモノが私にはわからない言葉を発しました。だが、このどこの国の言語でもない言葉が男にはわかるらしい。男はこのバケモノと会話してみせました。
「そんなことをしてみろ! 罪を重ねるだけだぞ!!」
「ヽ(`Д´)ノ」
 よくわからない言葉に怒気を込めてバケモノは沢山ある触手のうちの一本を大きく振り上げ、そして男めがけて一気に振り下ろしました!
 男は横に跳んで触手から逃げる。だが、その間にバケモノは私を自分の傍に引き寄せていました。私はバケモノの言葉がわからないけど、バケモノの意図はわかりました。自分はバケモノの人質になってしまったのだ。しかもこのバケモノ、人質を生かし続けるつもりはさほどないらしい。私を縛る触手にさらなる力が込められ、私の骨が悲鳴をあげる。
「い、いた………い」
 私はあまりの激痛に耐えられず、そのまま意識を失ってしまいました。真っ暗な世界に堕とされた私は、五感が完全に奪われる………。

「貴様! ………もう、許せん!!」
 男は、少女を人質に取り、さらに害を加えたバケモノに対する怒りで歯を強くきしませる。そして次の瞬間、右手を高々と天に突き出し、力強く叫んだ。
「着装!」
 男の声に応じ、夜空を切り裂き、雑木林の木々を吹き飛ばして一筋の光が降り注ぐ。一瞬で光が消えたかと思うと、男はくすんだ紺色の鎧に全身を包んでいた。曲面を主体とし、腰に拳銃が収められたホルスターが装着された紺色の鎧。それこそは男の切り札、PKスーツと呼ばれる強化服であった。そのデザインは日根野 摩耶の弟が好んで見ているテレビのヒーローのようであった。
 PKスーツに身を包んだ男は何もない空間から、バッジを取り出してバケモノにかざしてみせた。☆の形をしたバッジを見ただけでタコのような形をした相手は恐怖心を呼び起こされ、全身を震わせる。そして男は高らかに宣言する。
「宇宙警察から逃げるために無関係の市民を人質に取った貴様の行動は、銀河連邦刑法第一九四三条に反する! 銀河連邦刑法に基づき、貴様を逮捕する!!」
 きっとバケモノは「で、できるものならやってみろ!」とでも叫んだのだろう。バケモノは触手を振り回して、男に立ち向かう。バケモノのパワーは地球人の理解を超えていた。まるでストローを指で折り曲げるように、雑木林の木々がバケモノの触手でなぎ倒される。こんなパワーの触手をマトモに受けたら、運がよくても骨がバラバラに砕けるだろう。だが、男の身の軽やかさも地球人の常識を外れていた。
「シュウッ!」
 バケモノの触手が木を切り倒す斧の破壊力とするならば、男の動きは風だった。いくら剛力を誇り、斧を振り回そうと風を断つことはできない。風は、捕まえられないからこそ風なのだから。
 男は腰のホルスターに納まっていた銃を手に取り、そしてダイヤルを調節してから引き金を引いた。銃口から発射された熱線はバケモノの表面を照らし、バケモノはその熱さにもだえる。一瞬だけだったが、その時、バケモノが振り回していた触手の動きは止まっていた。風には一瞬だけで充分だった。
「レーザー警棒!」
 男はPKスーツ左肘の篭手から短い棒を取り出したかと思うと、一振りでその棒を一メートルほどの長さに展開させた。そして棒の取っ手から先が蒼白く光り輝く。それはレーザー警棒と呼ばれる暴徒鎮圧用兵装であった。
「アタック!」
 男が振り下ろした一撃は摩耶を縛る触手をしたたかに打ち付けた。摩耶を締め付けていた触手の力は瞬く間に緩まり、摩耶はついに解放されたのだった。人質を失ったバケモノは観念したらしく、それ以上の抵抗は見せなかった………。

(続く)
  1. 2007/10/06(土) 21:26:08|
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宇宙警察官 コバーン(1)

 買ったばかりの画用紙が真っ白であるように、生まれたばかりの人の心は真っ白、つまり何もないんだと思う。そこに綺麗な絵を描くか、それともただ乱暴に描き殴るだけか、それはその人の生き方次第だと思うし、私はそんな他人の生き方にまで気を使うつもりはない。
 ただ、私が言いたいのは、「成長する」っていうことは心の画用紙を汚していくことなんだということ。そして汚れた画用紙じゃ、夢を描く事はできないということ………。

 夜になっても街は昼間のよう。家々の窓から漏れる灯りや街灯、闇を切り裂く車のヘッドライト、テールライト………。雲一つない夜空を見上げても、星の欠片すら見当たりません。
 私、日根野 摩耶は中学三年生。部活は夏で引退し、今では昼に学校で勉強、夜も塾や家で勉強、勉強、勉強………。勉強ばかりでかわりばえのない一日を過ごすばかりでした。
 その日も私は草木が眠る時間まで家で勉強をしていました。午前二時。子供のみならず、大人だって寝ている時間です。だけど受験生の私は寝る間を惜しんで勉強を続けていました。だからそんな時間になっても起きているわけです。
 こんな夜の遅くまで勉強しているけれど、しかし私にはこれといった目標があるわけではありません。ただ、周囲がそうしているから私もそうしている。それだけです。
 そういえば子供の頃は「お花の研究をする学者さんに」なって、世界一キレイなお花を作るんだって言ってたっけ。白い花に青い絵の具を塗りたくって、自分の名前をつけた花を作り上げていた事を思い出した私は少し懐かしく、そして気恥ずかしくなりました。子供の頃に思い描いていた夢が叶いっこないって気付いたのは何時からだったかしら? 目線は参考書の内容を追っているものの、その内容は全然頭に入りません。
 ………私はこれ以上集中力が続かない、勉強に身が入らない。いわゆる限界が訪れたことを自覚して、シャープペンシルを置いて参考書とノートを静かに閉じました。最後に軽くシャワーを浴びてベッドに身を預けよう。酷使された脳は睡眠を欲し、瞼は錘がつけられたように重い………。
 その時でした。私は窓の外を眩しい光が走るのを見ました。最初は車かバイクのヘッドライトが煌いたのだと思いました。でも、私の家はマンションの五階にあります。車やバイクは地面を走るモノなのですから、それが車やバイクのライトであるはずがありません。私はよくわからない光に興味を引かれました。たとえその光の正体がくだらないことでも構わなかったんです。勉強ばかりで退屈な日常に、ちょっとした味付けを加えてくれるスパイスになればいい。香辛料が食欲をそそるように、それは人生を楽しむ原動力になるから。
 私は寝ている両親と弟と起こさないよう、足音を殺しながら玄関に向かい、靴を履いて外に出ます。暖房の効いた部屋の中とは違い、冬の外の空気は夜の黒によって熱を奪われて、興奮で赤くなった肌に心地よく、鉛のように重たかった瞼は羽毛のように軽やかになりました。私は足早に光った方へ向かいました。

(続く)
  1. 2007/10/04(木) 23:23:23|
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