徒然草

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2行で終わる大火葬戦史外伝

宣仁親王妃「徳川喜久子、17歳です♪」

高松宮「おいおい☆」
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  1. 2008/12/10(水) 19:49:48|
  2. 試作小説
  3. | コメント:2

大火葬戦史 押川列伝01 「正義の墓標<2>

 翌日。
 関守議員殺害事件の調査を引き受けた押川が向かったのは町の外れに建っている和風の木造建築だった。個人経営の古書店としてはそこそこの広さの押川の店が二つ、三つ余裕で入るほど大きな敷地を持つ平屋の建物。それは北多摩に勢力を誇る極道、関東奥羽組の事務所であり、関東奥羽組五代目組長奥羽 賢柳の自宅でもある。
 近づくものを威圧する木目の美しい門に怯むことなく押川は呼び鈴を押す。インターホンの向こうから凄みのある声が何者の来訪かを尋ねる。押川は相手を恐れるでもなく、しかし恐怖心を隠すべく我を押し出すでもなく、あくまで自然体そのものの口調と表情で自分の正体を明かす。
「どうも。押川 恵太です。若頭に会いたいんですが………いますか?」
 押川の名を聞いた瞬間、インターホンの向こうの空気が変わるのがわかった。先ほどまでとは打って変わった、友人を迎える口調でヤクザが続けてくる。
「あ、押川さんでしたか。へい、若頭でしたらいます。ちょっと待ってくだせぇ、若いのに門を開けさせますんで………」
 その言葉から三〇秒も待たず、門が軋みながら開き始める。押川は鼻歌交じりで門をくぐって奥羽組の中へ入る。
 押川が会いたがっていた関東奥羽組若頭の平泉 信樹は日の当たる縁側で本を読んでいた。極道の平泉 信樹が読んでいたのは大藪春彦のようなハードボイルド小説かと思われていたが、押川の書店で購入した文庫サイズの、アニメ調の表紙と挿絵が目に痛々しいライトノベルという奴だった。まるで研ぎ澄まされた日本刀のように鋭い眼光と痩せ型の体の平泉にライトノベルを勧めたのも押川だが、しかしその不釣合いさは違和感を通り越してギャグにまで昇華されている。押川の内心を知ってか知らずか、平泉はよみさしのライトノベルにしおりを挟むと押川に軽く会釈した。
「おはようございます、押川さん」
 平泉は今年で三七歳。関東圏でも屈指の歴史と古臭さを誇るヤクザな関東奥羽組の中でも、輪をかけて義理と人情に厚い男だ。今どき東映のヤクザ映画でしか見かけないようなヤクザ象そのままの平泉と、元海軍少将で古本屋店長の押川。どこで知り合ったのか想像することすら困難な二人だが、ここで二人の出会いを語ることはしない。それはまたの機会とするが、これだけはいえる。平泉と関東奥羽組は押川 恵太に借りがあり、その恩義に報いるために押川の頼みを断れない間柄なのだ。
「本日はどのようなご用件で? 見ての通り、特に予定もないので囲碁でも将棋でも受けて立ちますが………?」
 涼しい声でそう告げる平泉だが、その眼は燃えていた。押川は先週末に平泉を将棋で負かしたことを思い出してクスリと微笑む。沈着冷静に見えて平泉と言う男、これでなかなか負けず嫌いな子供っぽい一面がある。奥羽組組長の次に敬愛する押川が自分の眼を見て微笑んだので平泉も相貌を崩した。
「ふ………今日は店が開いている日のはず。囲碁や将棋の用ではなく、私に用があるんですね?」
「そういうことだ。平泉、少し訊きたい事があるんだ」
「私に、ですか? わかりました。何でもどうぞ」
 押川は「ん………」と頷くと持ってきた新聞を平泉に手渡した。その新聞には関守議員殺害の件を報じていた。平泉は少し意外そうに眉をあげた。
「おや、今北産業の事件ですか。押川さんと関わりない話だと思っていましたが………」
「可愛い娘の頼みじゃ断れないのさ。で、平泉たちなら新聞情報以上のことを知っていると思ってね」
「そう、ですね………」
 平泉は腕を組んで視線をやや上方に向けて考える表情。その表情は何から話せばいいかを悩む表情で、平泉が新聞情報以上を知っていることが伺える。
「ま、押川さんもご存知かもしれませんが、『天誅男』についてイチから説明しましょうか」
「というかそうしないと読者に実情が伝わらないからな。頼む」
「え?」
「いや、ちょっとしたメタフィクションな話だ。続けてくれ、平泉」
「はぁ、わかりました」
 平泉は一度だけ咳をすると、それを合図に話し始めた。
「事の発端は半年前、峰柳会の幹部が殺害されたことにさかのぼれます」
「確か地上げ屋の元締めだった男だったな」
「はい。峰柳会はこの事件をきっかけに悪事が明るみに出たために主要人物が軒並み逮捕され、峰柳会に狙われていた地区の者たちは胸を撫で下ろしたと聞いています」
「ふむ」
「まぁ、峰柳会のやり口は確かに天誅の一つや二つ食らわせたくなるようなひどいやり口でしたが」
 古きよきヤクザである関東奥羽組の方針に誰よりも誇りを抱いているのが平泉 信樹だ。そんな平泉からすれば峰柳会に同情の一辺も持てないのだろう。そして世論も平泉のように、『天誅男』に好意的である。その理由は………
「以降、ほぼ毎月のペースで悪事を働いていた人物が襲撃を受け、殺害されています。警察やマスコミはこの襲撃者を『天誅男』と呼んでいるのはご存知の通りです」
「殺害現場に『天誅』と書かれたカードを置いていくからついた呼び名だったな………安直この上ないネーミングだが、それだけにわかりやすいよな。法に隠れた悪を討つってわけだ」
「ええ。ですが『天誅男』には一つ不思議な所があるのも事実です」
「と、いうと?」
「たとえば峰柳会の一件や今回の関守議員の一件は、元々黒い噂が囁かれている人物でした。それこそ『天誅男』以外に狙われたとしても不思議ではない人たちです」
「まぁ、関守議員の場合は特に毎日のように報道されていたからな、今北産業との癒着問題は」
「はい。ですが、『天誅男』三人目の犠牲者、春実建設の春実社長だけは事情が異なっています」
 平泉があげた天誅男三人目の犠牲者、春実建設社長の春実 隆平。押川はその名前を記憶していた。
「確か春実建設の社長さんは高速道路建設の件で政治家との繋がりがあったはずだぞ。殺された関守議員のように、天誅男に狙われても不思議じゃないんじゃないのか?」
「確かに、『今となっては』春実建設の悪事は表沙汰になっています。ですが、春実 隆平という男、なかなかに用心深い男だったそうで、実際の所、春実建設の暗部は悪意を持つライバル会社ですら噂にもしていませんでした」
「ほう、そうだったのか」
 火のないところに煙は立たないなんていうが、人間の嫉妬心をあまく見てはいけない。嫉妬の炎が根も葉もない噂の煙を立たせることがある。ライバル会社という他社(この場合、春実建設)に対する嫉妬を内燃機関にしてしのぎを削っている立場の者が、想像すらできなかったことを春実建設は行っていた。確かにすぎた悪党であるが………。
「春実 隆平殺害現場に政治家との繋がりを示す証拠がばら撒かれていたからこそ明るみに出た悪事ですからね。マスコミを通じて春実 隆平殺害を知った押川さんのようなカタギの立場では気付けないでしょうね」
「と、なるとおかしな話だな」
 押川が不思議そうに首を捻るのを見て平泉の眼光が一際鋭く光った。
「でしょう? 私も天誅男の正体はつかんでいませんが、しかし天誅男の正体に疑問を抱いています」
「天誅男は並大抵の情報収集能力じゃ仕入れることができないはずの情報を持っている」
 押川の言葉に平泉が首を縦に振った。
「まぁ、我々が独自に仕入れている情報はこれくらいですね」
「ん、そうか。すまなかったな、色々と聞いてしまって」
「いえ………私は組長に押川さんの頼みは絶対に聞き入れるよう言われていますし、組長を抜きにしても押川さんの頼みは断れません」
 平泉の澱みない言葉を聞いた押川は平泉の肩を軽く叩いて感謝を表した。
「ありがとう、平泉。今度、酒でもおごるよ」
「調べ物が早く片付くことを祈っています」
 押川はその言葉に背を向け、円を描くように右手を振ると関東奥羽組を後にした。
  1. 2008/04/08(火) 23:19:18|
  2. 試作小説
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大火葬戦史 押川列伝01 「正義の墓標<1>」

「嘘も百万回繰り返せば真実となる」
 ドイツ第三帝国の宣伝相、ヨーゼフ・ゲッベルスはこう言った。
 しかし嘘はしょせん嘘。いくら必死に塗り固めようとも、疑惑という名の穴は必ず露見するだろう。
 だが、嘘とは防衛本能が生み出すこともある。目の前の酷な現実から逃れるために一時凌ぎ程度にしかならないとわかっていながらも嘘をついてしまう。
 これは人の悲しい性であり、誰であっても例外はない………。
「関守議員、今北産業との癒着疑惑について一言お願いします!」
「関森議員!」
「議員、今北産業から受け取った五億の金はどこに消えたんですか? 一言お願いします!」
 まるで草食獣に群がる肉食獣のように報道陣からの質問と撮影のフラッシュが四方八方から押し寄せる。衆議院議員の関守 貫英はこの日も嘘で己を塗り固めていた。
「だから儂は何度も言ってるでしょう。儂は今北産業からカネなんか受け取ってない。消えた五億も何も、存在しないモノについて語れるはずがないでしょう」
 関守は足早に国会議事堂前に駐車させている黒塗りのベンツを目指す。だが、報道陣の肉壁にさえぎられて思うように前へ進めない。
 ………えぇい、このハイエナどもめ。関守は内心でたぎる思いを懸命に隠しながら唇を噛む。
「では関森議員、議員が昨年に購入した高級マンションの資金をどう説明されるのですか?」
 関守が昨年に購入したマンションの一室は、いわゆる億ションという奴で今北産業から受け取ったと噂される資金がなくては購入が不可能だと言われている。関守はそれについて何も言わず、ただ歩くのみだった。
「議員、何か言ってください!」
「それともその無言は肯定ですか? あ、議員! 議員!!」
 関守は報道陣に対して応えず、車に乗り込んだ。防音処理が施されている車に乗れば、耳障りな報道陣の質問も聞こえなくなる。関守は車に乗ることで己と外界とを遮断した。
 ………忌々しい。今北産業のバカどもめ。あれほど献金のことは隠し通せといったのに。
 関守は大きく舌打すると、車のハンドルを握る運転手に向かって予約しているホテルに行くよう命じた。運転手は車の前に立ちふさがるように撮影を続けるカメラマンにクラクションを鳴らし、それでもどこうとしない厚かましいカメラマンに対しては強引に車を発進させて無理やり追い払った。
 ホテルについた関守は運転手を帰し、自分は確保しておいた部屋の鍵を受け取ってベッドに身を投げ出す。
 ………なぜ私、関守 貫英がこのような目にあわなければならんのだ。
 関守は天井を見据えながら自問自答する。
 幼い頃から関守は勉学に励み、有名私立中学から有名進学高校、東京帝国大学に入学、就職先は大蔵省と絵に描いたようなエリートコースを歩み、そして政治家となった自分。自分は大衆とは違う、選ばれた存在なのだというプライドが関守にはあった。
 そんな関守の経歴に傷が入ったのは、帝国海軍が今度新たに新設する特務実験艦隊の艤装工事で便宜を図ってやった今北産業から七億もの献金を受けたことからだった。だが、関守はそれを悪いことだとは考えていない。俺は特別な人間だと言う「思い」と、今まで遊びたい時に遊ばず、エリートコースに乗るために必死になって無駄になっていた「青春」のツケを回収しているのだという「考え」。この二点が今北産業からの献金を、関守は当然のものとして捉えさせていた。
 愚民どもが………俺がこの地位を手にするためにどれだけの努力があったと思っているのだ。お前たちのような愚者では考えることすらできないほどの人生を送ってきた私が、そのツケを回収して何が悪いのだ!!
 関守はムシャクシャして灰皿を扉へ投げた。ガラスでできた灰皿が木目の美しい扉にぶつかって砕ける。灰皿が砕けた音の後、少しおびえた様子のノックが三度鳴った。
「………何だ?」
 その場の感情で灰皿を砕いたことに関守は少し負い目を感じながらノックに応えた。
「ルームサービスでございます」
「ルームサービス? 別にいらん………」
 関守の返事を聞かず、扉は開かれる。そして入ってきたのはホテルマンではなかった。なぜそれがわかったかって? ホテルマンは手に拳銃を持っているはずがないからだ。
「いいえ、関森議員にはこのサービスを受けていただきます。『天誅』という名のサービスをね………」
 関守の部屋に入ってきた男は死神のように薄く、冷たく笑うと拳銃の引き金を絞る。
 ポスッ
 消音装置が装備されていた拳銃から放たれた銃弾が関守の右肺を撃ち抜く。関守は激痛に顔を歪め、悲鳴で助けを呼ぼうとする。
 ポスッ
 もう一度、引き金を絞られた拳銃から放たれた銃弾は関守の声帯を破壊した。悲鳴をあげたくてもあげられない、だが即死できなかった関守は恐怖で涙を浮かべる。
「その苦しみの中で己の罪を悔いなさい」
 罪? 悔い? この男は何を言っているのだ………!?
 関守はそこでふと思い出した。近頃世間を騒がせている連続殺人犯のことを。犯罪者や汚職者を狙った殺人を繰り返し、現場に「ある一枚のカード」を残していく殺人犯………。
 男の正体を知った関守の目の前で、関守を撃った男はそっと紙切れを落とした。その紙、カードには関守の予想通りの単語が書かれていた。
「天誅」
 それが関守の見た最期だった。関守は出血多量で意識を失い、流しすぎた血の中で心臓の鼓動を止めたからだ。男は関守が事切れたことを確認すると、そっと部屋の扉を閉じた。
 今北産業からの献金が噂されていた関守 貫英議員は、連続殺人犯「天誅男」の五人目の犠牲者として最期を迎えた………。

[大火葬戦史 押川列伝01 「正義の墓標<1>」]の続きを読む
  1. 2008/02/17(日) 21:29:18|
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近況と大火葬戦史R番外編

油断するとすぐに更新間隔があくから困りますね。
いや、別に遊んでいたわけじゃないのです。
単純に土日も返上するほど真・三国無双5をやって………もとい、土日がなくなるほどに仕事が忙しくなっているんですけどね。いや、ホントホント。本当に忙しいんだってばさぁ(「関雲長こそが真の三国無双なり~」)

まぁ、時事ネタは新鮮な内にやっておかないとね、というわけで大火葬戦史番外編へ続く。 [近況と大火葬戦史R番外編]の続きを読む
  1. 2007/12/15(土) 23:33:42|
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宇宙警察官 コバーン(3)

「………ん、ん」
 私が目を覚ましたのはベッドの上でした。部屋と呼ぶにはあまりに殺風景で、カーテンに閉ざされた窓の他にはベッドくらいしかない部屋に私は一人で寝ていたようです。
 あれ? 私は、近所の雑木林でバケモノに襲われたはず。それにこんな部屋は知らないわ………?
 ボンヤリとする意識の中、私は必死に状況を把握しようとします。でも、私が記憶を辿り終えるより先に部屋のドアが開き、一人の男の人が入室してきました。男の人を見て、最初に私が思ったのは体つきのことでした。一八五センチくらいの長身に、ガッシリとした体格。年齢は二〇代半ばといった所だから、「大学時代はラグビーでもやってたんですか?」とよく聞かれたりするんだろうなぁ。そんな大きな体を、動きやすそうだけど飾り気の少ない紺色の服で包んでいます。襟元の長方形の形をしたバッジが唯一の飾りです。
どちらかというと濃い部類に入る眉毛はたるみなくまっすぐで、内面の意志の強さを感じさせます。ただ、イケメンとするには少々くどい顔とも言えるかな?
「大丈夫ですか。気分が悪いとか、どこか具合の悪い所はありませんか?」
 男の人はベッドから上半身を起き上がらせている私を見て話しかけてきました。年下の私相手にも丁寧な口調で質問しています。意識してそう振舞っている節は見えませんでした。おそらく彼はどんな時も、誰にでも丁寧な物腰で応対しているのでしょう。だけど年上の男の人に、こうも丁寧に応対されると、気恥ずかしさすら感じました。少なくとも私は、そう感じました。
「あ、はい。大丈夫です………けど」
「けど?」
「あの、ここは一体どこですか………?」
 不安げな私の口調に対し、彼はまったく自然にこう答えました。
「ここは宇宙警察太陽系駐在所です」
「うちゅうけいさつ? たいようけいちゅうざいしょ?」
 私はまだはっきりとしない頭を振り、そして言いました。
「あの、冗談はやめてください。宇宙警察なんて、漫画じゃあるまいし」
「ふむ。ですが、事実なのですからしょうがないでしょう」
 男の人はそう言うとリモコンのスイッチを入れて窓を覆っているカーテンを開けさせました。窓の外に見えるのは理科の教科書や図鑑の写真でなら何度も見たことがある土星でした。土星の輪がはっきりと見えて、惑星を彩る指輪のようでした。
「ど、土星!?」
 私はふらつく足取りも何のその。窓に駆け寄って土星を凝視します。私の混乱は収まるどころか大きくなるばかり。そんな私の心を知ってか知らずか、男の人は自己紹介を始めます。
「自分は宇宙警察のジュンサー・コバーンです。この駐在所に勤務する宇宙警察官です」
 ジュンサー・コバーンと名乗る、体格のいい青年はそう言って「よろしく」と頭を下げました。しかし私はまだ混乱の渦中にあり、頭を下げ返すと言う発想すらできませんでした。
 宇宙警察? 太陽系駐在所? 宇宙警察官?
 仮に彼の言葉から、「宇宙」という単語を省けば話は早くなると思います。「宇宙」を省いた場合は、「自分は警察のジュンサー・コバーンです。この駐在所に勤務する警察官です」となるんだから。うん、実に通りがいい響きです。
「ん? 翻訳機の調子がおかしいのですか? おかしいな、銀河統一規格のはずなのに………」
 コバーンさんは服の襟元のバッジを触りながら、初めて困惑した様子を見せます。どうやら、そのバッジが翻訳機とやらのようです。
「あはは、何だかよくわかりませんけど、随分と手の込んだドッキリカメラですよね」
 ………私はもう笑うしかありませんでした。笑って、目の前の現実から逃避をはかります。ホラ、早く出てきてよ、プラカードを持った人。
 でも私の淡い期待をよそに、この部屋にいるのは私と、コバーンさんの二人のみ。当然ながらコバーンさんも背中にプラカードなんて隠し持っていません。
「ふぅ、やはり一筋縄では納得してくれませんか………」
 コバーンさんは一息だけつくと、丁寧な口調のまま続けます。
「えぇとですね、この銀河に知的生命体が住んでいるのは地球だけじゃないんです。あなた達地球人にわかりやすく説明すると、宇宙人は実在するんです。まずこの前提をわかってもらえますか?」
「は、はぁ………」
「で、私たちはその宇宙人たちの犯罪者を取り締まる宇宙警察官なのです。ここはその宇宙警察官が所属する宇宙警察の太陽系駐在所というわけです」
「は、はぁ………」
 曖昧な私の返事にコバーンさんは少し困った面持ちで額をポリポリと掻いています。そりゃ、漫画とかだったから納得できますけど、いきなり面と向かってそんなこと言われて納得できるはずがないじゃないですか。
「えぇと、何か質問したい事はありますか? お答えしますが?」
 コバーンさんは作戦を変更したようです。私に説明するのではなく、私の疑問に答えていくスタイルに変えたようです。私にとってはその方がありがたいのが事実でした。
「じゃあ、まず一つ………。コバーンさんは宇宙人ってことですか?」
「はい。ポリスマ星の人間型宇宙人です」
「はぁ、そうですか。じゃあ次は、コバーンさん以外にも宇宙人っているんですよね?」
「そうですよ」
「でも、私、宇宙人なんて見たことないし、ニュースでも報道されてませんよ」
 宇宙人が実在するならば、テレビとかが放っておくはずがない。そう思った私はそのことを尋ねてみます。コバーンさんは短く刈りそろえられた髪を掻きながら応えてくれます。
「うーん、その辺はややこしくてねぇ………。まぁ、色々とはしょって説明させていただきますが、今の地球の文明水準で私たちのような宇宙人が自由に往来すると大混乱が起きると銀河連邦は考えているんですよ」
 確かに銀河を自由に往来できるほどの科学力は今の地球にとってはオーバーテクノロジーすぎるだろうなぁ。
「それに地球には惑星単位での統一された政府機関がありませんし、銀河連邦政府としても第三種交流しか許していないんです」
 何だかあちらさんの専門用語が沢山出てきて余計に混乱してきたけど、要するに………。
「えぇと、私が地球に住んでいても宇宙人を見かけないのは、コバーンさんたち宇宙人側が地球に立ち入らないようにしてくれているから、ということですか? 理由は、地球が田舎の惑星だから?」
「まぁ、詳細は省いていますが、そういう認識でいいと思いますよ」
 ふむん。私は地球の中じゃ最先端国家のひとつの日本に住んでいるけど、宇宙人の眼から見たらトンでもないド田舎に住んでいるということかぁ。宇宙規模の最先端ってどんな所なんだろう。私の家の近くみたいに雑木林なんかないんだろうなぁ………。
「雑木林」という単語が頭をよぎった時、私は気を失う前のことを完全に思い出しました。暗闇の中からふいに襲ってきた、あのバケモノのことを。
「あれ? あの、さっき私、タコみたいな怪物を見たような気がしたんですけど………」
「ああ、あれは多脚型宇宙人タコトパス星人なんですけどね。うん、彼は飲酒UFO運転で操作を誤って地球に降り立ってしまったんです。地球に降りるには銀河連邦外務省の厳密な審査が必要だと言うのに、冥王星のバリケードを突破してしまったのです」
 ………冥王星にバリケードなんかあるの?
 ピンポーン
 高めのトーンの音が、コバーンさんの話が終わるのを待っていたかのように鳴り響く。
「誰か来たみたいなので、ちょっと失礼します」
 そう言ってコバーンさんは席を外します。どうやら今の音は呼び鈴のようで………って、ちょっと待って。今の音ってうちの呼び鈴と同じ音なんですけど。やっぱりコレってドッキリじゃないの?
再び膨れ上がる私の疑念。でも、その疑念はあっという間に吹き飛ばされます。
「お? お嬢ちゃんがコバーンの言ってた地球の少女?」
 コバーンさんと入れ替わる形で部屋に入ってきた人が気さくに声をかけてくれます。何だか緊張感に欠ける、緩やかな声でした。声の質から判断すると、どうやら男の人のようです。いや、性別がそもそもあるのでしょうか? コバーンさんと入れ替わりで部屋に入ってきた気さくな人を一言で片付けるなら「ロボット」だったのですから。
 照明の灯りを反射する金属の皮膚。わずかな挙動でも響く駆動音。そして顔の中心に一つだけ輝く眼………。ロボットの人(?)は私が寝転ぶベッドの端に腰を降ろして私の顔に目線を向けます。一つ目のカメラアイがかすかな駆動音をたてて動いています。
「タコトパス星人の酔っ払いに襲われちゃったんだって? 災難だったねぇ。ま、犬に噛まれたとでも思ってすぐ忘れてくれるとおじさんたちは嬉しいね。あ、犬に噛まれたら忘れられるはずないか。何てたって痛いもんね」
「は、はぁ。あの、あなたは………?」
「ああ、地球じゃ珍しいんだっけか? 俺はヒューマノイド、いわゆる人間型ロボットのテトっていうんだ。一応、コバーンの上司なの。よろしくね」
 テトと名乗るロボットは私の手を取るとぶんぶんと上下に振りました。本当に気さくな、ロボットとは思えない気さくさをもつ人(?)でした。
「あ、テトさん。ここにいたんですか」
 どうやらテトさんを探していたらしいコバーンさんが再び部屋に現れます。
「ど~したのよ、コバちゃん」
 テトさんは気だるそうに左肩をもみながら返事します。なんだかこの人も、中の人がいるんじゃないかってくらいに怪しい感じがします………。
「さっき逮捕したタコトパス星人、宇宙遊牧民のすぐ傍を通過したらしいんですよ」
 ………宇宙警察の次は宇宙遊牧民かぁ。そんなことを密かに考えている私を横目に二人の宇宙警察官が仕事の話を続けます。
「その際にシジュウが一頭逃げ出して、地球に降下したそうです」
「シジュウが? ったく、あのタコトパス星人め。余計な仕事を増やしてくれちゃってさぁ」
「で、どうしましょうか?」
「そりゃ捕まえるしかないでしょ。地球にシジュウがいたら、生態系が乱されちゃうよ。まぁ、コバちゃんはとりあえずそこのお嬢ちゃんを地球に送ってあげなさい。地球の科学力じゃ太陽系駐在所はおいそれと来れる場所じゃないんだから」
 土星を一望できる場所にある駐在所なんか、NASAでも来れません。

「ほ、本当に宇宙なんですねぇ」
 私を太陽系駐在所から地球に送る移動手段を見た時、私は素っ頓狂な声をあげたものです。だって、それはどう見ても地球の軽自動車だったんですから。
「我々は仕事でよく地球に降り立つ事があるから、地球でも目立たない形にする必要があったんですよ」
 テトさんはそう言って説明してくれましたが、しかし軽自動車が宇宙を走るってのはあまりに非現実的すぎます。というかギャグです。
「迷彩シールドは施してあるから、地球から望遠鏡をいくら覗いても我々は見えやしないけどね」
 軽自動車のハンドルを握るコバーンさんがそう言いました。でもその言葉は私の耳に届きません。私は軽自動車型UFOの助手席(?)で窓の外を流れる星の煌きと、太陽系の惑星を間近に見ることに忙しくってそれどころじゃありませんでしたから。
 もしかして私って土星を間近で見た最初の日本人、いや、地球人なのかも!
 私の胸はロックバンドのドラムのように激しく高鳴っています。今じゃこう感じています。もう、これがドッキリでも全然構わない。こんなに胸が素敵に高鳴るなんて、何年ぶりかしら。こんな気持ちになれたのなら、騙されたとしても嬉しいわ。
「でも、これって本当のことなんですよね………」
 それはよく考えてみれば馬鹿げた質問でした。それでもコバーンさんは丁寧に、だけど少しの茶目っ気を加えて答えてくれました。
「当然です。ええと、地球だとこう言うんでしたっけ? 『頬をつねってみてごらんなさい』って」
「うふふ。ほっぺた、すごく痛いです。痛いのがこんなに嬉しいなんて!」
 嬉しそうに弾む私の声。それは自分でわかるほどでした。
「でも、これだけは約束して欲しい」
 コバーンさんは茶目っ気を消して、真面目な口調で私に告げます。
「君が今日見たこと、体験した事はすべて秘密です。理由は、わかっていますね?」
「喋るはずないわ。いえ、喋っても信じてもらえないわよ」
「ん………」
「ところで………」
 窓の外を眺めながら私はコバーンさんに尋ねます。
「シジュウってどんなのなんです?」
「ん? ああ、宇宙遊牧民が育てている宇宙家畜ですよ。値段の割に味がよく、どんな料理にもあうことから重宝されているんです」
「へぇ、地球で言うと鶏肉みたいなものなのかな?」
「肉のイメージとしては近いかもしれません。でも、生物としては全然違いますね」
「そうなんですか?」
「シジュウは怒りっぽくて、とても凶暴な生き物なんですよ。シジュウを育てる宇宙遊牧民の方々は常に武装しているくらいです」
「ええ!?」
「ああ、でも安心してください。人は食べませんから。ただ、周囲の何かに擬態する能力があって………それだけに、むしろ探すのが厄介かもしれません」
「はぁ………」
「さ、もうすぐ着きますよ」
 いつの間にか目の前には青い惑星が目一杯に見えています。それはもちろん、漆黒の宇宙で太陽の光を浴びて青く輝く私たちの惑星。地球。
「ありがとうございます。………人を襲わないって、じゃあシジュウは何を食べるんです? 草ですか?」
「いえ、石です。石を食べてシジュウは大きく育つんですよ」
 衝撃もなく軽自動車型UFOは地面に着地。そして私のマンションのすぐ近くで停車します。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ、お礼を言われるようなことでもないのですけどね。何せ君はタコトパス星人の酔っ払いに襲われたのですから」
「でもコバーンさんに助けてもらったのも事実ですよね?」
「ははは。ではおやすみなさい。私はこの辺りを見回ってから戻るとします。何かあったら呼んで下さい。すぐに駆けつけますから」
 軽自動車から私が降り、扉が閉められたのを確認してからコバーンさんはそう言って、私に一〇桁の数字が書かれた紙を手渡してくれました。その紙には「宇宙警察太陽系駐在所電話番号」と書かれていました。
「では、おやすみなさい」
 コバーンさんはそう言うと軽自動車型UFOをゆっくり走らせながら私のマンションの傍から離れて行きます。私は軽自動車が見えなくなるまでずっと立ちながら見守っていました。車内の暖房で暖まった体が冬の寒空で冷えていくごとに、私は夢が醒めていくのを感じました。
 私の体が冷え切って、私がくしゃみを一つした時。私は元の受験生に戻ったのでした。

(続く)
  1. 2007/10/08(月) 23:11:30|
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